『真昼のアイアン・メイデン』《花》 CAST:Kagura,Okita,Hizikata.















 良い天気だった。
 空はそれなりに青くて雲も適度にあって、太陽は白い。彼女にとって日光は天敵だけれど、嫌いなものではないからその白さは嬉しい。

 ああ、良い風だ。

 きっと今なら誰もが笑えるんだろう。




 なんとなく、うきうきと楽しい気分だった。









 ふと脇を見る。いつの間にか、ずっと同じ塀が続くようになっていた。

 屯所だ。

 すぐに思い当たり、にっと笑って思いっきり跳躍、塀の上へ。広いけど荒れた庭が一望できた。
 「あいつら、何してるかナ」
またからかって遊んでやろうか、でも沖田の奴がいると面倒臭い、ゴリラがいれば五月蝿いな…色々と考えながら跳ねるように庭を進む。と、見覚えの有るふざけたアイマスク顔が見えた。
 普段あまり人が居るのを見たことが無い真っ黒な扉の前で、片膝立てて居眠りしている。

 「……何やってんダお前」
だいぶ近くまで寄ってもなんの反応も無いものだから思わず声を出していた。うわっ・と、あまり聞かないような驚いた声が返ってくる。
 マスクの下から、怪訝そうな目が覗いた。
「…なんでィ、チャイナ」
「こっちの台詞アル。アイマスクしたまま周りに気も配んないでナニ寝コケてるカ」
「……あァ」
酷く厭そうに顔をしかめ、
「聴きたくなくって無意識に耳閉じちまったィ」
「ア?なんだって??」
「なんでもねーよ。てか、なんで此処に居んだチャイナ。出てけ」
「何ヲォォ!いっつも面白そーなツラして見てるくせに今更何言うネ!!」
「うっせェな、ホントはいつだってお前居ちゃいけねんだぞ」
「お前こそうっさいアル!…良いモンもう。多串クンで遊ぶからー」
 つんと顔をそらした神楽には、一瞬沖田が身じろぎしたのは見えなかった。
「どこアルか多串クン。山崎でも良いヨ。つーかお前以外なら誰でもい」
「チャイナ。」
若干トーンの下がった声に、思わず口を閉じる。
「……何ヨ」
「帰れ」
「だから、なんで!いっつもなんにも言わないじゃんっ」
「あーうっせェな、良いからとっとと帰……」

がららっ。

 鈍い音。ぴた・と動きを止め、頭だけめぐらして後ろを見る。
 こもった紫煙を纏わりつかせ、きょとんと目を丸くした土方が立っていた。
「……何やってんだ沖田…、…チャイナ?」
「多串クン!」
自分の首根っこを掴んでいた沖田を突き飛ばし、思いっきり飛びつく。うわっ・という声が真横でして、そしていつも以上に、異様に煙草臭かった。
「聞――てヨ多串クンっ、沖田の奴がなんかよくわかんないけどぐだぐだぐだぐだっ……アレ?」
 小首を傾げ、まじまじと“下”を見下ろす。
「手ぇどうしたノ、多串クン」
「あ?……ああ」
少し微笑う。なんだかいつもより物腰が柔らかいような気がした。柔らかいだけで、優しい・ではない。
「なんでもねーよ」
「ほんとカ?なんか赤黒いアルヨ」
「倉庫の整理してたからな、なんか機械の残骸とか触った時に油でも付いたんだろ」
「ヤダっ、多串クン不潔!」
「んだとコラ!つーか離れろアホっ!!」
「……」
「…なんだ?」
急に黙り込んでじっと見つめてきた神楽に、怪訝そうな面持ちで訊いてみる。んー、と可愛らしく唸って、にこりと笑って、
「なんか調子戻ってきたネ多串クン。」
「はあ?」
「そこから出てきた時、目、半分死んでたアルヨ」
「……」
「もうちょっとで銀ちゃんだたアル」
「冗談じゃねェ」
「ウン、今だいじょぶヨ。ちょっとずつ瞳孔開いてきてるアル」
「瞳孔開いてたら人間死んでるんですけど」
「お前いっつも開いてんじゃん」
「んだとォォォ!!」
 だんだんテンポの良くなっていく会話を心地好く思いながら、ふと横を見る。ぽかんとして、沖田がじっとこちらを見つめていた。むう、と顔をしかめる。
「なんか用アルか?私、出てかないヨ」
「……」
黙ったままの沖田に、土方も少し怪訝そうな顔をしてそちらを見る。首にぶら下がったままの神楽を引き剥がそうと四苦八苦しながら、

「なんだ総悟、どっか悪ィのか?」

沖田の目がますます丸くなった。少しだけ、口が開く。
「…、土方さ」
そしてすぐ閉じた。ふ・と僅かに微笑う。
「やっぱ、なんでもありやせん」
「…なんだよ、気味悪ィな」
「多串クン多串クンっ、こんなの放っといて遊ぶアルー、おやつは?」
「無いわッ!!…つーか俺ァこれからまだ一仕事あんだよ、お前邪魔だから帰れマジで」
「またまた土方さんたら、ヒマ人のくせに」
「テメーもだ総悟!情報ってのは活用する為にあんだぞ何の為に苦労して聞き出したと思ってんだ、分かってんのかコラ」
「別にそう大人数な訳でもなし、副長殿がわざわざ出向くほどのコトじゃねェだろィ。二、三番隊でも出せば十分でしょーや」
「そういう問題じゃねっ…」
「何ナニなんの話アルか!?」
「お前にゃ関係ねーよチャイナ。あー土方さん俺団子喰いてェ」
「勝手に食ってろアホ!…ったく、どいつもこいつも……っ」
「多串クーン、瞳孔瞳孔」
「土方さーん、眉間眉間」
「うっせェェェ黙ってろてめェら!!」
間を置かずしっかりと返ってくる怒号に少し笑って、隣の沖田を少し睨んで、ふいと空を見上げた。



 相変わらず青い空は相変わらず万人を祝福している。



 「多串クン私チョコが良いヨ」
「酢昆布娘は大人しく酢昆布かじってやがれ」
決してこちらを振り向きはしない土方の、放っておいたらポケットに入りそうだった袖口を捉まえ、きゅっと握る。

 その手が何に汚れているのか、本当は分からないわけではなかったのだけれど、結局彼女にとってはどうでも良いことなのだ。どうせ彼は馬鹿みたいに優しいお人好しなのだから。
 だから、信じたって彼女にはなんの損も無い。あるはずがないのだ。


 ただ“彼ら”は気にしているようだったので黙っていた。それだけのことである。















 「だいじょぶ、だいじょぶ」
「あ?何が」
「別になんでも。好い天気ネー」
まだ少しばかり陰鬱な気がしないでも無い男達の空気を払拭するように明るく言って、笑う。


 まるで、ほろほろと花の零れるような笑顔だ。ほんの少しだけど彼がそんな風に思っているなんて、勿論知らない。

















                                 ---------------A Partial End 1.
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 「花」なら神楽しかいない!と思ってつけてみたら、なんと四章中一番最後の話が最初に来てしまったという…しかし付けてみるともう外したくないという……(だってぴったりすぎるんだもの!(・・・))

 全体的に男どもが救われない雰囲気なので(汗)、みんなの救いになるようにと神楽は明るく書いたつもりです。マスコットでヒロインな神楽ちゃんですから!(笑)
 でも結局土神ファンなので土方を前に出してしまいましたがね…(駄目物書き) 最後の『彼』も土方です。別に沖田と取っていただいても私は構いませんが…沖田は「花のような」とか言わないんじゃないかと(笑) ただ、結局土方さんを浮上させたのは彼女なわけで(この話の場合)、その辺にちょっと嫉妬というか悔しいというか、そんな風には思ってそうです。そいでべしっと顔とか頭とかはたきそうです(八つ当たり) そしていつもの通り喧嘩が始まります。
 …土方を挟めば沖楽的思考にも耐えられるみたいです(ぉぃ